確定申告の時期になると、「節税」という言葉が話題に上ります。
それに伴い、いかに負の資産を処分するかが課題となります。
先日も知人との会話で出たテーマは「相続した空き家」でした。
地方では珍しくない悩みです。
今回は、空き家をどのように扱うべきかを税務の観点から整理してみます。
果たして、空き家は本当に世間で問題視されている「負動産」なのでしょうか。
Q. 空き家を放置するとどうなるか
住宅用地の特例
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用されます。
しかし、適切な管理がされていない場合、自治体から次の指定を受ける可能性があります。
特定空家・管理不全空家
指定されると、翌年度から住宅用地特例が解除される可能性があります。
例えば、
- 現在の固定資産税:年5万円
- 特例解除後:年30万円
→ 固定資産税が年間25万円増加
放置は無視ができない支出増のリスクを伴います。
A1. 行政に引き取ってもらう
相続土地国庫帰属制度(2023年開始)
相続土地国庫帰属制度により、一定条件を満たせば国に土地を引き取ってもらうことが可能になりました。
解体費用の目安(例)
- 木造住宅解体:約150万円
- 負担金:約20万円
→ 合計約170万円の負担
費用対効果の慎重な検討が必要な金額です。
A2. 自治体への寄付
現実的には、ほとんど受け入れられません。
理由は、
例外的に受け入れられるのは、
など限定的です。
A3. 「賃貸物件」による事業化
そこで検討すべきが、物件を「賃貸物件」として募集し、不動産事業としての実態を作る方法です。
たとえ入居が見込めない家でも、地元の不動産会社と「媒介契約」を結び、募集活動を行うことで、税務上の「事業用資産」へと切り替えることができます。
重要な前提
税務上、不動産事業として認められるためには、
が必要です。
単に「節税目的」で形式的に募集するだけでは、税務否認のリスクがあります。
なぜ「募集」だけで節税になるのか
事業として「貸す意思」があることを客観的に証明できる状態(例:媒介契約書の締結、募集広告の掲載など)であれば、たとえ空き家(空室期間)であっても、それまで自腹で負担していた費用は事業のための必要経費として計上できます。
また、建物の取得価額から算出される「未償却残高」を基に、減価償却費を算定し、不動産所得の必要経費として計上することが可能です。
つまり、
- 個人的な持ち出しだった維持管理費 → 不動産事業の必要経費へ転換
- これまで活用できなかった減価償却費 → 不動産事業の必要経費へ算入
という構造になります。
これにより、不動産所得が赤字となった場合には、給与所得と合算する損益通算が可能になります。
空室期間中の主な必要経費
- 固定資産税
- 火災保険料
- 修繕費
- 除草・剪定作業代
- 管理委託費
- 相場:家賃の 5% + 消費税
例えば、家賃3万円の場合、月々1,650円程度
- 相場:家賃の 5% + 消費税
- 募集広告費(入居が決まった時のコスト)
- 仲介手数料(法定上限):家賃の1ヶ月分 + 消費税
これらは不動産所得の必要経費です。
「未償却残高」の経費計上
不動産事業においては、建物の取得価額から導き出される「未償却残高」を基に「減価償却費」を算出し、不動産所得の必要経費として計上することが可能です。
「未償却残高」とは
未償却残高とは、建物の取得価額から、取得時より現在までの減価償却累計額を差し引いた「帳簿上の残存価値」を指します。
耐用年数を超過した物件の「減価償却費」
法定耐用年数(木造住宅の場合は22年)をすべて経過している物件であっても、次の「簡便法」を用いることで、短期間での経費化が認められています。
- 法定耐用年数 × 20% = 償却期間 ※1年未満端数切り捨て
(例:木造 22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年)
これにより、残存している未償却残高を4年間で均等に償却(減価償却)し、毎年の必要経費として計上することができます。
例えば、親が3,000万円で購入した木造一戸建ての場合
- 築22年以上
- 土地:1,000万円
- 建物:2,000万円
築年数が古く、建物が法定耐用年数を超えている場合でも、売却時の取得費を計算する際には、建物取得価額の5%を概算取得費として用いることができます。
この例では、
2,000万円 × 5% = 100万円
を建物の未償却残高とみなすことができます。
この100万円を簡便法による4年間で償却すると、
100万円 ÷ 4年 = 年間25万円
となり、毎年25万円を「減価償却費」として必要経費に計上することが可能です。
損益通算について
不動産所得が赤字になった場合、原則として給与所得などと損益通算が可能です。
例えば、年間給与所得330~690万円の会社員の場合
- 所得税率20%
- 住民税10%
→ 合計税率 約30%
- 家賃収入(空室時):0円
- 必要経費(例):40万円
- 管理維持費:15万円
- 減価償却費(4年間):25万円
→ 不動産所得:△40万円
理論上の節税効果は、
40万円 × 30% = 12万円
(補足)必要経費について
空き家を事業化することで新たに発生する主な費用は、管理委託費です。
たとえば家賃を3万円に設定した場合、管理委託費は月額約1,650円程度となり、年間ではおよそ2万円の負担増となります。
一方で、空き家の維持費と減価償却費(4年間)を経費として計上することにより、約12万円の節税効果がありました。
この年間2万円の管理費を差し引いても、何もしない場合と比べて約10万円の改善効果が見込めます。
さらに、日々の出費まで経費の対象範囲を広げることで、より大きな効果が期待できます。
経費の対象を拡大
経費計上による効果は所得状況や個別事情によって異なりますが、たとえば次のような支出も経費の対象にできます。
- 不動産のある地域へ帰省する際の交通費
- 事業に使用する文具やOA機器
- ビジネス関連書籍
経費のお得感
給与所得が年間330万円~690万円程の方であれば、「これらの支出が実質3割引になる」と考えると効果を実感しやすいでしょう。
また、給与所得が年間990万円超の方であれば、関連書籍やパソコンなどを「4.3割引」で購入できる計算になります。
例えば、10万円の最新PCを事業用として購入した場合、高所得者であれば、経費計上による節税効果によって実質約5.7万円で購入できる計算になります。
放置している空き家を「事業」に変えると、日々の出費を経費と考えることで節税がより身近なものへと変わります。
A4. 将来の売却時の「譲渡損失」の確保
空き家の節税のためのポイントは、将来の売却時にもあります。
取得価額の引継ぎ
相続の場合、親(被相続人)が購入した当時の価格を引き継ぐことができます。
例えば、親が3,000万円で購入した木造一戸建ての場合
- 築22年以上
- 土地:1,000万円
- 建物:2,000万円
→ 2,000万円 × 5% = 100万円
築年数が古く、建物が法定耐用年数(築22年以上)を超えている場合でも、売却時の経費(取得費)を計算する際は、建物の取得価額の5%(この場合100万円)を未償却残高として残せます。
合計1,100万円(土地1,000万円 + 建物100万円)が、新たな「取得価格」となります。
100円で売却した場合 ~「100均物件」として手放すケース
- 売却価格:100円
- 取得価格:1,100万円
→ 譲渡損失:約1,099万9,900円
損益通算による節税
不動産の譲渡損失は、原則として他の不動産譲渡益と相殺可能です。
例えば、買い替えや投資用マンションの売却で利益が出た場合
- 投資用マンション売却益:1,100万円
- 空き家譲渡損失:約1,100万円
→ 相殺により課税対象ほぼゼロ
長期譲渡所得の税率は、
- 所得税15%
- 住民税5%
→ 復興特別所得税含め約20.315%
もし相殺しなければ、1,100万円の利益に対して約223万円の税金が発生します。
しかし、空き家の売却で生じた損失をぶつけることで、課税対象となる利益そのものを圧縮し、この223万円の税負担を丸々回避できる計算になります。
空き家は「負動産」にも「資産」にもなり得る
空き家を、
いずれの道を選んでも、相応の費用や手間は避けられません。
しかし、決定的な違いがひとつあります。
「放置」と「管理」の違い
放置は、時間とともにリスクを拡大させる可能性があります。
一方で、適切に管理することは、税務上のメリットを活用できる余地を残します。
たとえば、
こうした準備は、将来の税負担を左右する重要な要素になります。
相続した空き家は「負動産」にも「資産」にもなり得る
空き家は、何もしなければ、維持費とリスクだけが積み上がる負の資産になることもあります。
しかし、税制や不動産市場を踏まえて設計すれば、収益や節税につながる資産になる可能性もあります。
その分岐点は、早期に現状を把握し、動き始めるかどうかです。
まず確認すべきこと
税制は複雑であり、個別事情によって結論が異なる場合があります。
実際に実行される際は、所轄の税務署や税理士などの専門家へ確認することをおすすめします。


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